コロナ治療のお話 〜アビガン?レムデシビル?〜

こんばんは、酔いどれ麻酔科医です。

昨日はPCR検査の、主に落とし穴についてお話させて頂きました。

PCRは必要な検査です。しかし現状あまりに出回っている情報がPCRありきであること、そしてPCRの欠点について殆ど述べられておらず、現場の一個人としては現在の偏向報道にはかなり疑問符を抱いているため、出来るだけ噛み砕いた形でお話しました。

さて、今日は今度は治療面でのお話をしようと思っています。特に皆さん気になっているのはやはり、「アビガン」「レムデシビル」なのではないでしょうか?

まずは、改めて新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染症の現状の治療全体についてお話したいと思います。

新型コロナ感染はそもそも無症状~軽症例がおよそ80%程度とかなりの高い頻度で自覚症状が乏しいということが特徴です。また感染直後はどうやらウイルスの発生量が少ないため、PCR検査でも検出出来ない可能性があります。

つまりどういうことかというと、症状が乏しい→感染に気付きにくい、ということです。他のウイルス、代表的なものを挙げるとインフルエンザウイルス感染の場合、39℃以上の発熱や全身倦怠感、関節痛など明らかな自覚症状があるため感染者は割とすぐに気付くことが可能です。

ところが、新型コロナ感染の場合は感染に気付きにくいため日常生活をそのまま続けてしまうということが問題です。クラスター発生が問題となったのも、結局は感染者が自分が感染したことに気付かず日常生活を続けてしまったために周りの方も感染してしまったという流れです。

症状に関しては発熱、そして、味覚や嗅覚障害が起きるということが知られていますね。有名人だと、阪神タイガースの藤浪晋太郎選手が感染して、この味覚、嗅覚障害があったと報道されていました。

症状が重篤になると全身倦怠感、そして肺炎が起きます。といっても、仮に肺炎が生じても症状に乏しい場合もあり、実際軽症の肺炎の場合、CT初見でも跡形もなく改善したというケースもあります。一方で重症化すると人工呼吸器管理が必要になったり、最重症者だとECMOといった体外循環装置を使用しての呼吸循環管理が必要となるケースもあります。

ここで少し話題を変えます。皆さんは、「入院適応」という言葉をご存知ですか?平たく言えば、僕ら医師が「この患者さんは入院が必要だ」と判断する基準のことです。その基準は様々ありますが、大きく分けると、

1.治療が患者さんに対して大きな負担をかけるため、その前後で厳重に経過観察をしなければならないと判断した時(手術や化学療法がこれに当たります)

2.患者さんの重症であるため厳重に経過観察をしなければならないと判断した時

3.患者さんの衰弱が激しく、経口摂取、特に水分摂取を自力で出来ないため点滴加療が必要とされた時

4.酸素投与が必要とされた時

この4つにまとめられるかと思います。要は、「病院にしかない設備や薬剤、物品などをその患者に使用しなければならない時」と言い換えることが出来ます。

なぜ適応が定められているかと言うと、これがないと無秩序に患者さんが入院したり、あるいは必要な患者さんが入院出来なかったりしますし、結果あっという間に日本中の病院がパンクしてしまう恐れがあるからです。

話を戻します。今回の新型コロナウイルス感染で「なんでこんなに熱があるのに入院出来ないの?」「どうしてこんなにだるいのに入院出来ないの?」といった声を聞きますが、その答えがまさに上でお話した、入院適応がないからです。

また、もうこの話題は何年も前からされていることですが、今回のコロナ関連でもやはり「たらい回し」が問題となっています。このことに関しては、また後日お話しようと思っています。この話題は実はかなり根深いので、話し始めてしまうと長くなってしまいますので。

さて入院適応ということになると、もう一つ大切な声を聞きます。「息苦しいのに、酸素の値を測ったら大丈夫と言われたから自宅待機にさせられた」という声です。少し、このことについてお話します。

人間の体の中の酸素の状態を測る数値で、「酸素飽和度」という言葉があります。SpO2と表記されるのですが、通常健康人であれば日常生活を送る上でこのSpO2は95%以上、というか、安静時であればほぼ99-100%を示します。ところが、肺炎を起こすと肺におけるガス交換(血中の二酸化炭素を放出し、酸素を血液に取り込ませること)が障害され、この酸素飽和度が下がります。そのため呼吸苦の症状が出現します。こうした場合、SpO2は低下し、90%を切ることも勿論あります。こうした際に酸素投与が必要となるため、入院の適応となります。

ところが軽症肺炎の場合、元々のガス交換がしっかりされていたため、急にガス交換がうまくいかなくなって普段よりわずかにSpO2が下がっても「猛烈に苦しい!」と感じる場合があります。こうした方が病院を受診しても、例えば「SpO2が96%あるから大丈夫です。自宅待機でお願いします」と言われてしまう訳です。

ただ・・・これには途轍もない落とし穴が存在します。特に僕ら麻酔科医にとっては本当に重要な話なので詳しくお話したいのですが、それもまた話すと長くなるので別の機会にさせてください。でも、ひょっとすると今回の一連のニュースの中で自宅でお亡くなりになった方がいらっしゃったのは、この落とし穴にはまってしまったからかもしれません・・・

また話を戻します。呼吸苦ですが、逆の場合もあります。それは「ほとんど呼吸苦を感じていなかったけれど、SpO2を測ったらなんと90%を切っていた」というケースです。この場合は当然酸素投与が必要ですから、入院の適応となります。

ちなみにこうした方は元々肺に持病を持っていた方や、後は喫煙歴のある方に多い印象を受けます。
今回のコロナ肺炎が重症化するケースは、多くの場合喫煙歴がある患者です。そのメカニズムについてはまた別の機会に。

実は入院しても軽症~中等症の場合、僕らができる治療はあまりありません。SpO2の値を適正範囲にする様に酸素投与を行う、また高熱が出る様なら解熱薬を投与するなど、結局は対症療法しか出来ません。
重傷者に対する人工呼吸器管理やECMOといった体外循環に関しては今回は省略しますが、これらも程度の違いはありますが、同じく対症療法なのです。

さて。恐らく今これを読んでくださっている皆さんの一番の関心事は「アビガン」「レムデシビル」、そしてワクチンのお話だと思います。今からそのお話をします。

どうして日本ではアビガンを投与出来る施設が限られているのでしょうか?それにはきちんとした理由があります。

そもそもアビガンやレムデシビルとは一体何でしょう?

アビガンは商品名で正式名称はファビピラビルと言い、抗インフルエンザ薬の一つです。ただし、その他の抗インフルエンザ薬が効かない場合にのみ使用可能とされています。その理由は、アビガンの開発段階における動物実験において催奇形性が認められたからです。そしてその催奇形性は女性側だけでなく、精液へも移行するため男性側にも注意が必要です。

そのため妊娠可能年齢の女性と、ほぼ全年齢における男性において非常に慎重な投与が必要となります。

一方レムデシビルは抗エボラウイルス薬として開発された薬ですが、実はそもそもまだ世界中どこでも臨床応用されていなかった薬です。ですから商品名はありません。投与実績としては、コンゴ共和国におけるエボラ出血熱患者に対して「臨床研究として」投与されましたが、決して良い結果は出ませんでした。

ここまで聞くと、皆さんの頭の中に当然の様に疑問符が浮かびませんか?どちらもコロナウイルス感染症への使用が認められていない中で、アビガンの方が既に臨床投与されているのだから先にアビガンをコロナ感染者へ投与出来る様にすれば良いのに、と。

にも関わらず先にレムデシビルが薬事承認を得る方向となっているので、「アメリカへの忖度説」が巷で流れている訳です(笑)

ちなみにアビガンを開発したのは富士フィルム富山薬品という、れっきとした日本の会社なのに・・・と、ネットリテラシーの強い方ほど憤りを感じている様です。さらにはアビガンを中国や欧米に無償提供したのに・・・というのも、怒りに拍車をかけている様です。

でも皆さん、これにはきちんとした理由があります。そのことについてお話します。

そもそも薬が開発されてから実際臨床応用されるまで、どの様な手続きが踏まれているかご存知でしょうか?

「薬事法」という法律があります。ここに新薬開発から薬事承認を得るための流れが書かれています。(https://www.pmda.go.jp/files/000155539.pdf)

簡単に解説すると、まず基礎研究(動物実験)で効果や安全性などを確立させることが必要です。それが済んだら今度はいよいよ臨床治験といって、実際人に投与するフェーズに入ります。このフェーズが3段階あり、まずは少数の健康な人に投与する(第1相)、次に少数の対象者(患者)に投与する、そしてようやく多数の対象者に投与する。

この3つを全てクリアしてようやく承認申請を提出することが出来、審査の後に厚生労働大臣の認可が下りた段階で、晴れて臨床応用される様になる訳です。ついでに言えば、臨床応用されてから新たな副作用が認められようものならさぁ大変、発売中止→再審査となってしまいます。

色々述べましたが、要はとーっても時間がかかる!ということです。

この辺りの問題に関してはまたどこかでお話するとして、またも皆さん疑問に思われませんか?「あれ、じゃあアビガンもレムデシビルもその臨床治験はクリアしたの?」と。

実は今回のケースがまさにそうなのですが、この薬事法には裏技が存在します。それは、①国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがある疾病が蔓延し、緊急に使用する必要がある、②日本と同等の審査水準がある外国で承認されているという特例承認制度が存在するのです。

平たく言えば「本当に危ない病気に効きそうな薬があったら、海外で認められれば特例で日本でも承認します!」という制度です。

レムデシビルはアメリカのギリアド・サイエンシズという会社が開発した薬で、本当に最速でアメリカのFDAの承認を受けて既に投与されています。

一方のアビガンはそもそも日本で開発された薬ですから、海外での臨床治験などは行われていませんでした。だから急遽海外へ無償提供してでも治験→承認を受けて、この特例制度でのコロナ感染症への承認を得ようとしているのです。

なのでアメリカへの忖度説や、中国に脅されているなどの説は全くのデタラメです(笑)

ちなみに勿論、日本国内でも治験のフェーズ3にあります。ですから、あくまでも「治験」という形での投与になるためかなり煩雑な手続きが必要になってしまいますが、この治験に参加している病院であれば医師が必要と判断した段階でアビガンの投与が可能となるのです。

これも有名人の方がアビガンを投与されて劇的に回復した、などのニュースが飛び交っていて、上級国民だから云々などの声も聞きましたが、それもまた全くのデタラメです。

ちょっと長くなりすぎました。
続きはまた明日。では。

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